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福岡高等裁判所 昭和26年(ネ)701号 判決 1952年6月19日

控訴人 筑邦貨物自動車株式会社

被控訴人 柳潤成

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

本判決は第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

控訴人は、主文第一ないし第三項同旨の判決を求め、被控訴人は、本件控訴を棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とするとの判決を求めた。

事実及び証拠の関係は、

被控訴人において、「被控訴人は、昭和二十六年七月五日の被疑事件の検挙は、一身上一生の重大な試練で、最も留意すべき処と肝に銘じ且つこれが新聞報道(被控訴人に関する限り虚偽のものであるが)によつて、控訴人が被つた一応の信用の失墜、受註の減少も認め、百方陳謝した(乙第三号証参照)のであるが、即時の退職を迫られ、本件仮処分申請後に、急遽供託された一万数千円(乙第五号証参照)では二、三ケ月の生活を支うるにも足らず、又転業資金にも達しないから、極力職場への復帰を乞うたし、又原判決が情理を尽した理由をもつて本件解雇の違法なることを宣明したにもかかわらず、控訴人は、原判決言渡後、被控訴人が就労の申入をなした当時から、被控訴人の同僚たる控訴人の従業員につき、被控訴人の非行を調査して、本件解雇を合法化しようと謀つた。従業員としては、雇傭主たる控訴人の意に背き得ない立場にある。まして若干の非違の責められるものないとはいえない従業員もあるであろうから、控訴人の疏明方法は、信憑力がないと云わねばならない」と述べ。

控訴人において「被控訴人は、控訴人の古参従業員として、その指導者たる地位にあるべきにかかわらず、古参者たることを笠に着て、平素の勤務上、数多不都都合な行為をなして、会社の服務秩序を紊すこと頻繁であつたため、本件被疑事件の発生を機会に、控訴会社重役の総意と、従業員多数の意思により、解雇するに至つたものである。しかして、右被疑事件が不起訴処分となつたことは争わないが、仮りにその処分が犯罪の嫌疑なしとの理由によるものとしても、被控訴人の昭和二十六年七月五日の所為は、荷主の信用保持を、営業の発展及び継続の要件とする貨物自動車運送業を営む控訴会社にとつては、控訴会社の就業規則第二十三条第八号所定の『自動車の私用を絶対に禁止する』との規定に違反するは勿論これと同時に、前述の平素の行為とともに同規則第六十三条第三号の『不都合なる行為』に該当するものというべく、従つて、昭和二十六年七月二十六日附をもつて久留米労働基準監督署長がなした労働基準法第二十条第三項第十九条第二項の規定による認定を受けてなした、同年八月十日の解雇は即時解雇として有効というべきである。しかるに、被控訴人の申出に基いて同年八月十三日久留米労働基準監督署監督官姉川宗隆、久留米人権擁護委員会委員児玉精吾、同許斐朝夫等が仲介斡旋した結果、控訴会社は被控訴人の希望により就業規則第六十三条又は労働基準法第二十条による最低三十日分の平均賃金を解雇手当として、同年八月二十日被控訴人の勤務職場であつた控訴会社本町支店で支払う。被控訴人は前記解雇を承認する旨の合意が成立した。しかして、控訴会社としては、何時でもこれを払い得たのであるが、被控訴人は、その後翻意して、本町支店に出頭せず、解雇手当も受領しなかつたため、同年九月七日これを供託した。従つて、本件八月十日なした解雇は有効であり、仮りに然らずとするも、右解雇手当を提供した八月二十日、又は少くともこれを供託した九月七日までには解雇の効力が生じたものというべく、被控訴人の解雇の意思表示を争う本件仮処分は、利益がない」と述べた。

(立証省略)

理由

一、控訴会社が久留米市で、貨物自動車による貨物運送業を経営するもので、被控訴人が自動車運転手として、控訴会社に雇傭されていたところ、同会社が、被控訴人に対し、昭和二十六年八月十日解雇の意思表示をなしたことは当事者間争なく、それ以後、被控訴人が就業を拒否され、従業員としての待遇を受けていないことは、当事者弁論の全趣旨において、明らかである。

二、よつて、前記解雇の意思表示の効力を判断するに、

控訴会社は、被控訴人の各所為は、全体として会社の就業規則第六十三条第三号の「不都合の行為があつたとき」に該当するから、労働基準法第二十条第三項及び同条の準用する同法第十九条第二項による労働基準監督署の認定を得て、解雇をなしたから、前記解雇は有効であると主張する。よつて、成立に争ない乙第一号証ノ一、二に依ると、右第六十三条は、左の各号の一に該当するときは、三十日前に予告するか、又は、三十日分の給与を支給した上解雇する。一、已むを得ず事業上の都合に依るとき。二、精神又は身体の故障があるか、又は虚弱、老衰、疾病のため業務に堪えられずと認めたとき、三、不都合の行為があつたとき。四、其の他前各号に準ずる程度の已むを得ぬ理由があるとき、とあつて、これを労働基準法第二十条の規定と対照すれば、他に特別の事由の認められない限り、本件就業規則第六十三条の解釈としては、同条各号に該当することを理由として、労働者を解雇する場合は、その限度において、労働基準法第二十条第一項但し書及び同条第三項の規定は、適用を排除され、右第六十三条本文所定の三十日前に予告をなすか、又は三十日分の給与を支給し、若しくは支払の提供をなすことが、解雇の効力発生要件をなすものと解すべきで、仮令労働基準法第二十条第一項但し書同条第三項によつて、同条項所定の労働基準監督署長の認定を受けても、これを理由として、即時解雇をなし得ないものというべく、これは、労働基準法が、労働条件の最低基準を保置して、その低下を防止することを根本目的とすること及び右就業規則第六十三条が一の法規範と解することから出てくる当然の結果である。そして、成立に争のない甲第一号証及び乙第四号証と当事者弁論の全趣旨に依ると、前顕解雇の意思表示は、解雇の予告ではなく、三十日分の給与の支給ないしその提供があつたのでもないから、控訴会社から一方的になした右の解雇の意思表示は、他の争点について判断するまでもなく、それのみによつては解雇の効力を生ずるに由なしといわねばならない。

三、つぎに解雇を被控訴人が承認したとの点について判断する。

(一)  前記乙第一号証の二(第二十三条第十六条)成立に争ない乙第八号証ないし第十二号証ノ一、二、同第十四号証同第十六号証ないし第二十号証、原審証人村田の証言により成立を認むる乙第六号証及び同証言を綜合すると、

被控訴人は、単独で、あるいは他と共謀の上

(1)  昭和二十五年四月頃控訴会社内にあつた、同会社保管の不良部品を勝手に取出し売却の上、その代金を自ら費消し、

(2)  昭和二十五年五月頃控訴会社内に山下銅鉄店の、飛行機の部品を持つて来て、数日に亙りこれから地金を取り、就業規則に違反して、控訴会社の自動車で運搬の上自己の知人に売却してその代金を費消し、

(3)  昭和二十六年二月頃控訴会社の部品を窃み出して、自己の知人に売却し、代金は被控訴人ひとりで取得し、

(4)  昭和二十六年四月頃、控訴会社がその得意先にタイヤを売却した際、被控訴人は自己の利益を図るため、無断で、その代金の代物弁済として空ドラム罐二本を受領し、しかも、この事を秘していたため、控訴会社をして、右得意先に該代金を請求するの不体裁をなすに至らしめ、

(5)  同年五月頃、就業規則に違反し、勝手に控訴会社の自動車を使用して、山下銅鉄店から、地金を窃み出し、これを右自動車に積載して、他に売却し、

(6)  同年六月二十六日頃被控訴人が従事した、貨物自動車による輸送の運賃を受取つた際、内金五百円を誤魔化して自己において着服し、(追及の結果事発覚して、弁償す)

(7)  その他、就業規則に違反して、夜間控訴会社所有のダツトサンを持出し運転して特殊飲食店に出入し、又平素の勤務成績良好でなかつたこと、

(8)  然るに、同年七月五日控訴会社の従業員山本文弘(当時二十二年)が同会社のトラツクにより、業務として運送していた古屑鉄類の一部を、不正に領得したところ被控訴人は、同日午後六時頃控訴会社本町支店で、右古屑鉄類が賍物である情を察知しながらこれを買受くる契約をなし、就業規則に違反して無断控訴会社のダツトサンを引き出し、右物件を運搬して運転中、山本文弘と共に賍物品の現行犯被疑者として、久留米市警察署員に逮捕され、該事実が成立に争ない乙第二号証の一、二記載の通り、同年同月七日の毎日新聞並びに夕刊フクニチ新聞紙に掲載されたため、控訴会社の信用を失墜し、控訴会社の受註減を来たし(逮捕以下の事実は被控訴人の認むるところである)、控訴会社の営業に相当の被害を及ぼしたこと、

(9)  控訴会社は右(8)の被控訴人の所為を契機とし従来の被控訴人の所為、行跡をも斟酌して、被控訴人の退職を求むることを決定し被控訴人の将来のため、成立に争ない甲第二号証の通り同月二十日附をもつて、被控訴人の自発的退職を求めたるも拒絶されたため、同甲第一号証の解雇の通知をなしたこと、

が各疏明される。これによると被控訴人の以上の所為は、正に前示就業規則第六十三条第三号の「不都合の行為があつたとき」に該当するものと云わねばならない。

以上の認定に反しあるいは反するかのような甲第四号証ないし第十一号証、第十二号証の二、ないし第十四号証、第十五号証の二、第十六号証、第十七号証の二、第十八号証、第十九号証の二の各記載は信用しない。甲第三号証の記載は、右認定の妨げとならず、その他に以上の認定を覆えすに足る疏明資料はない。

(二)  だとすると、控訴会社は、三十日前に予告するか、又は三十日分以上の平均給与を支給することによつて、被控訴人を解雇し得る立場にあつたというべきところ、前記乙第十三号証の記載の一部と、第十四号証、第二十号証、成立に争のない乙第五号証、同甲第二十号証の二、同甲第二十一号証の各記載を綜合すると、被控訴人は、前記解雇の通告を受くるや、昭和二十六年八月十三日福岡法務局久留米支局に、同支局長を訪ね、解雇に予告期間なく、また、予告手当の支払なきことを訴えて、解雇の効力の有無等を尋ねたため、又その前に、前示被控訴人の被疑事件は、不起訴処分(起訴猶予処分であるか、犯罪の嫌疑なしとの事由によるかは、不明であるが)となつたため、同支局長は、即日人権擁護委員児玉精吾、同許斐朝夫と共に、被控訴人を伴い、久留米労働基準監督署に赴き、同署々長その他の職員と種々交渉協議した結果、同人等の仲介斡旋により、被控訴人と控訴会社との間に、被控訴人は控訴会社のなした解雇を承認し、円満退職することとして、被控訴人から退職願を提出すること、控訴会社は、三十日分の平均賃金の外に休業手当奨励金を、同会社本町支店において、同月二十日支払うことの条項を取極め、以つて雇傭関係を解消する契約が成立したこと、(従つて、かかる場合控訴会社としては、反証ない限り右契約上支払うべき金員を、何時にても支払い得るよう支払日に準備していたものと認むるのが相当である。)しかるに被控訴人は八月二十日右金員受領のため、本町支店に出頭しないばかりか、その後、意を翻えして就労を懇請し来り、雇傭関係の存続を主張し、同年九月一日に至つては、成立に争ない甲第四号証内容証明郵便をもつて、前記解雇の合意の存在を無視し解雇手当等の受領を明確に拒絶する意思を表示し来つたため、控訴会社は同月八日前記約定の金員を供託したことが疏明される。

叙上の認定に反する、甲第十五号証の二、同第十七号証の二、同第十八号証、同第四号証の各記載は措信しない。その他に右認定を左右するに足る疏明資料はない。従つて、前示雇傭の合意解約は、同年八月二十日(遅くとも同年九月七日)をもつて、効力を生じ、被控訴人の本件保全請求権は消滅したというべく、従つて、被控訴人の本件解雇を無効と主張して、仮処分を必要とする理由は、結局疏明がないことになり、しかも保証を立てさせて被控訴人の仮の地位を定むるを相当と認め難いから、本件仮処分申請は却下を免れない。

従つて、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第七百五十六条の二を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 二階信一 竹下利之右衛門 秦亘)

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